なんくるないさ

輪島の事件

medical

こんばんは。

今日はyahooニュースやtwitterでもちょくちょくみた、輪島の産婦人科の医療事故、について。

簡単な流れは35週の里帰り妊婦が破水疑い?で入院、経過観察するも早剥で新生児死亡になり、主治医の過失?が認められ5000万以上の賠償金が払われたという内容。

詳細は正直分かりませんし、結果として新生児死亡になったというのは非常に痛ましく、残念です。
本当にご家族の気持ちを考えると、辛いです。

ただ、医療者側の実際として、
この情報だけ聞くと、詳細は異なるかもしれないので、実際のところはわかりませんが、

まず

① 35週、破水でその時点で明らかな異常なし → よくある、その場合1日程度経過みることもよくある
② その後早剥 → 予想は困難。あり得る。
       → 帝切をしなかったのが問題という記事でしたが、急激に進行し経膣分娩になることはあり得る。

早剥であれば可及的速やかな分娩が望ましく帝切となるが、早剥の場合、急激な分娩進行をすることもあり経膣分娩になることもあり得る。 というか急速な分娩進行で早剥を起こした可能性もあり得る。

詳細はわからないため、明らかな過失があったのかもしれませんが、少なくとも上記の可能性はあり得る。

ここまでは通常の周産期医療。

そしてここからが、今後の周産期のヤバさだと思いますが、

この先生はこの周辺の市町村4つくらいの周産期を含めた産婦人科医療を一人で行っていた。
これはものすごいことで、本当に責任感が強く、勤勉で、強い志がなければ、通常はできないことだと思います。
普通は不可能です。
開業医の先生でお一人で基本みられている先生もいらっしゃいますが、市立病院レベルだと、本当に無理だと思います。

今回のような事態に本気で対応するなら,少なくとも10人以上、今後の医師の働き方改革を踏まえるなら15人程度の産婦人科医師を常勤で雇い、かつ、新生児科や麻酔科も常に当直しているような体制を整える必要があると思います。

① 実際は地方によっては、それだけの数を集めることはそもそも不可能であり、産科を閉じざるを得ない → 文句
② 十分ではない人数でなんとかまわし、このような事態を避けるため少し余裕をもった帝切の適応 → 文句 
③ そもそも、どれほど手厚い医療を行っても、一定数の新生児死亡や母体死亡は起こり得る → 訴訟

周産期医療は とにかく羊水塞栓や子癇発作、大量出血など 死ぬ可能性があるものを一番に心配して、念頭に置きながら対応しても救命できないことが、実際あります。

繰り返しですが、
今回35週の妊婦の破水で明らかな異常所見がない場合、通常経過観察です。
そのまま24時間以内に陣痛が来ることも多く、おそらくしばらくは帰れるだろうという考えで、夜間には呼ばれる可能性も頭に置きながら有給を取られたのだと思います。
そして夕方には再度よばれ分娩になっているのであれば、分娩の経過としては比較的早かったのかもしれず、絶対的な帝切の適応があったのかはわかりません。もちろん詳細は分かりません。
おなかが張っている場合、早剥の可能性は考えますが、初めは症状が乏しい場合もあり、その場合はその時点での対応は困難です。

自分が見た記事のみの内容からは、明らかな ミス と言っていいのかがわからない印象でした。

周産期で命を落とす赤ちゃんやお母さんは世界的には相当数いますが、日本は幸い世界トップレベルの周産期医療を提供しているため、分娩が怖いという認識がなさすぎる、というのが一番の問題でしょうか。

このような 事故 があると、今後はより一層、集約化が進み、お家の近くでのお産は無理になっていくと思います。

実際、今の時代はその方向が良いと私自身は感じます。

昔、福島県立大野病院の事件で産婦人科医が逮捕された事件がありました。

癒着胎盤は本当に大変なもので、その事件の際も一人のDrで、患者さんの意向を尊重して子宮摘出が遅れたのが一因だったと記憶していますが、状況から全国の産婦人科医が逮捕に絶望し、皆が産婦人科を辞めることを考えた事件だったと、上の先生方からは聞いています。

お母さんは命懸けでお子さんを産んでいることを、赤ちゃんも命懸けで生まれてくることを、多くの人が心から理解してくれる日が来るといいなと感じつつ、行政にもシステムの構築を本気で進めていただければなと感じます。