「Threshold Relay」(スレッシュホールド・リレー)

クリプト

ICP(Internet Computer)では、ブロックチェーンのセキュリティやスケーラビリティを確保するために、様々な暗号技術が使われています。その中でも重要な役割を果たしているのが「Threshold Relay」(スレッシュホールド・リレー)です。この技術は、ICPの合意アルゴリズムやノードの動作において重要な役割を果たしています。ここでは、このThreshold Relayの仕組みや役割について、わかりやすく解説していきます。

1. Threshold Relayとは?

Threshold Relayは、Dfinity財団が開発したICPの分散型合意プロトコルにおける一部の重要なメカニズムです。具体的には、「無作為性」を生成し、それを信頼性の高い方法で利用する仕組みを提供します。無作為性はブロックチェーンにおいて多くの場面で重要で、特にノードの選定や次のブロック生成者の決定に使われます。

ICPにおけるThreshold Relayの主な目的は、次の2つです:
1. 無作為なノードの選択:ノード間で信頼性のあるランダム性を生成し、ネットワーク全体で利用します。
2. 合意形成の効率化:無作為性を使うことで、ブロック生成や合意形成のプロセスを効率化し、セキュリティを向上させます。

2. 無作為性の重要性

ブロックチェーンでは、さまざまなプロセスにおいて「無作為性」が必要です。例えば、ビットコインのProof of Work(PoW)では、次のブロック生成者はマイニングの結果によって決まりますが、これは純粋な計算能力に依存しています。一方、Proof of Stake(PoS)では、ステーク量に基づいてブロック生成者が選ばれますが、ここでもある種の「無作為性」が重要な要素となります。

ICPでは、この無作為性を「しきい値暗号」(Threshold Cryptography)を使って生成し、その結果を全てのノードが共有するという形を取ります。この無作為性がThreshold Relayによって生成されるものです。

3. しきい値暗号とは?

しきい値暗号(Threshold Cryptography)は、暗号学的な手法の一つで、特定の数の参加者が協力しないと秘密情報を解読できない仕組みです。例えば、秘密鍵が複数の部分に分割され、それぞれが異なるノードに配布されます。その後、一定数(しきい値)のノードが協力して初めて元の秘密鍵が復元され、情報が復号されます。

ICPでは、しきい値暗号を用いて無作為性を生成します。

具体的には、各ノードが無作為な値を部分的に生成し、それらを合計して1つの「共有された無作為な値」を作り出します。このプロセスは複数のラウンドに分けて行われ、各ラウンドで無作為な値が更新されます。このようにして得られた無作為性は、ブロック生成者の選定など、ネットワーク全体で利用されます。

4. Threshold Relayの仕組み

Threshold Relayは、しきい値暗号リレー方式を組み合わせた仕組みです。
リレー方式というのは、あるノードが処理を行い、それを次のノードに渡していくという仕組みです。具体的な流れは以下の通りです。

1. 無作為性の生成:各ノードが自分の秘密鍵の一部を使って無作為な値を生成します。これは、しきい値暗号に基づいて行われ、すべてのノードが無作為な値を生成することで、全体としての無作為性が形成されます。

2. 無作為性のリレー:生成された無作為性は、次のラウンドに引き継がれます。これは、次のブロックを生成するノードを選定するための重要なステップです。このプロセスでは、前のラウンドの無作為性を使って、次のノードがどのように選ばれるかが決定されます。

3. 次のブロック生成者の決定:無作為性に基づいて次のブロック生成者が決定されます。これにより、誰も特定のノードが次にブロックを生成するかどうかを事前に予測できないようになっています。これがセキュリティ上の大きな利点です。

5. Threshold Relayの利点

Threshold Relayがもたらす利点は大きく2つあります:

5.1. セキュリティの向上

無作為性の生成と利用において、特定のノードや参加者がプロセスを操作することが非常に難しくなっています。しきい値暗号の仕組みによって、一部のノードが不正を試みても、しきい値に達しない限り無作為性を操作することができません。これにより、ネットワークのセキュリティが大幅に向上します。

5.2. スケーラビリティの向上

ICPは、高いスケーラビリティを目指して設計されていますが、そのためには効率的な合意形成が不可欠です。Threshold Relayによって無作為性が効率的に生成されることで、ブロック生成のプロセスが加速し、全体のスループットが向上します。

6. 他のブロックチェーン技術との比較

Threshold Relayは、他のブロックチェーン技術と比べて非常に独自の方法で無作為性を扱っています。例えば、ビットコインのProof of Workでは、無作為性は純粋に計算能力に依存していますが、ICPではそれを暗号技術に基づいて実現しています。また、イーサリアム2.0のProof of Stakeでは、ステークに基づいて無作為性が生成されますが、ここでもThreshold Relayのような高度な暗号技術は使われていません

この違いは、ICPが目指している目標、すなわち「スケーラブルかつセキュアなブロックチェーンの実現」に密接に関連しています。Threshold Relayは、暗号技術を駆使してこれを実現するための鍵となっています。

7. しきい値暗号とBLS署名

ICPで使われるしきい値暗号の具体的な実装には、BLS署名(Boneh-Lynn-Shacham署名)という暗号技術が利用されています。BLS署名は、分散型システムにおいて、複数の参加者が協力して1つの署名を生成するのに適しています。これはThreshold Relayにおいても同様で、複数のノードが共同で無作為性を生成し、その結果を署名することで、信頼性の高い無作為性が得られます。

BLS署名のもう一つの大きな利点は、その効率性です。通常、複数の署名を個別に検証する必要がありますが、BLS署名では、これを1つの署名としてまとめて検証できるため、処理の負荷が軽減されます。ICPのような大規模なネットワークにおいては、この効率性が非常に重要です。

8. 実際の運用例

ICPでは、Threshold Relayがブロック生成やノード選定にどのように使われているのかを具体的に見てみましょう。たとえば、次のブロック生成者を選ぶプロセスでは、各ラウンドで無作為性が更新され、その無作為性に基づいて次のノードが選ばれます。このプロセスは、毎回新しい無作為性が生成されるため、予測不可能であり、攻撃者がブロック生成者を事前に特定して攻撃することが非常に困難です。

さらに、ノードの選定プロセスだけでなく、ネットワーク全体のガバナンスやトランザクションの承認プロセスにもThreshold Relayの

無作為性が活用されています。このように、ICPの様々なレイヤーで無作為性が信頼性を高める要素として機能しています。

9. まとめ

Threshold Relayは、ICPのブロックチェーンネットワークにおいて、無作為性を安全かつ効率的に生成し、それを基にした合意形成プロセスを実現するための重要な技術です。
しきい値暗号の利用によって、ネットワークのセキュリティが向上し、無作為性の生成プロセスが不正行為から保護されています。
また、この無作為性をリレー方式で次のラウンドに引き継ぐことで、スケーラブルなブロック生成が可能となっています。

ICPは、Threshold Relayを活用することで、既存のブロックチェーン技術よりもさらに高いセキュリティとスケーラビリティを両立させています。
この技術がICPの特徴的な合意形成メカニズムの基盤となっていることは、今後のブロックチェーンの発展においても非常に重要な要素となるでしょう。