お産は命懸け
よく言われることですが、とはいえ少ないんでしょ、と思われる方が多いと思います。日本では特に。
以前(周産期メンタルヘルスの重要性)にも書きましたが、日本の周産期医療のレベルは世界トップクラスです。
トップと言っても全然良いと思います。
母体死亡率は10万出産あたり4.1件(2022年)から計算すると、年100万出生とすると(近年急激に減少していますが、仮で)、年間約40人の妊婦さんが亡くなっていることになります。県単位で考えると、年に1人いるかいないか、という数字でしょうか。
交通事故などの死者が年間2000-3000人いることからすると、本当に少なく感じて、運が悪かったんだね、と感じる方が多いでしょう。ですが、その裏には、周産期医療がなければ亡くなっている方が、何十倍も存在します。
私自身がみていて母体死亡に至った方は幸いいません。ですが、一歩遅ければ亡くなっていたであろう妊婦さんは少なくないです。 私がこれまで在籍していた施設で、同時期に母体死亡に到った方は複数います。 そして、蘇生後脳症など重度の後遺症を来したケースも複数います。
それらのケースは、もともとの妊娠高血圧などが急速に悪化して搬送されてきたケースもありますが、low risk症例として管理していて、妊娠前や分娩中、後に急な心肺停止となった方もいます。
low riskとして管理し、分娩後に出血が止まらなくなり搬送されてくるケースは少なくありません。
大量の輸血や速やかな止血処置が必要ですが、止血処置とあっさり書きましたが、簡単でないケースは山程あります。
分娩後の大きな妊娠子宮では圧迫止血が十分出来ないこと、放射線科に依頼し子宮動脈を塞栓しても他の動脈からの血流がありとまらないこと、突然心肺虚脱を起こすこと、ほか予期せず事態に遭遇します。
お産は怖いから産むのは控えよう、と言いたいわけではありません。
お産は予期せず突然に緊急になります、
母体の状況より遥かに多い例で、胎児の状態変化で緊急帝王切開や急速遂娩が必要になることがあります。
一方で、何にも問題なく妊娠期間を過ごし、分娩も安産でなんともない方も多いです。
陣痛は痛かったけどね、程度の。
周産期医療では胎児異常に加えて、妊娠期間中の母体のダイナミックの生理学的変化に伴う異常所見を見つけることが目的で、通常妊娠に伴う場合は、妊娠の中断をすることで改善傾向に向かうため、そのタイミングを見計らうのが産科医の仕事です。
日本のこのような周産期医療体制を維持するためには、集約化、が必須だと思っていました。
産婦人科医だけでなく、麻酔医、新生児科医、放射線科医、可能であれば外科、泌尿器もいることが望ましいです。
新生児医療も含めればさらに小児専門の各科医師、小児循環器外科や小児外科なども揃えることが望ましいですが、そこまでくると各県レベルでは困難かもしれません。
今後、日本の保険制度の影響もあり、また少子化の影響ももちろんあり、クリニックは減少していく一方だと思います。
安全が前提の周産期医療を提供するためには、欧米のような大規模産科病院のようなシステムにしていくしか、今の日本の周産期の安全性を維持する方法はないのかもしれません。
そうなった場合、妊娠、分娩の満足度、をいかに保つかも重要になってくると思います。
そして個人的に関心があるのが、トラウマをうまないような周産期管理、ですが、周産期の状況を考慮すると、安全な分娩を提供するだけ精一杯だろうなと感じてしまいます。