周産期メンタルヘルスという分野について
周産期メンタルヘルスという分野
多職種の連携を要する分野であることは間違いありませんが、今回は医師側から、この分野について考えてみます。
周産期 といえば、産婦人科 (+小児科)
メンタルヘルス といえば、精神科(または心療内科(以後、精神科で統一))
周産期メンタルヘルスであり、精神科の中で、周産期を専門にした分野、という考え方が一つあるでしょうか。
産婦人科の分野についてざっくり
従来、産婦人科は周産期、婦人科腫瘍、生殖医学(内分泌)の3分野にサブスペシャリティが分かれていましたが、最近第4の領域として女性医学、女性のヘルスケア領域が台頭してきました。
周産期メンタルヘルスは女性のヘルスケア領域にあたる?
産婦人科専門医研修のカリキュラムの中に、周産期メンタルヘルスの記載はありません。
女性ヘルスケア分野では?
女性の全てのライフステージにおけるヘルスケアの専門医、だと捉えられますが、具体的な周産期精神疾患の記載はありません。
女性特有のヘルスケアに特化していて、うつ、などは疾患頻度に比して、あまり治療対象としては捉えられていない印象です。
周産期専門医のカリキュラムでは?
合併症妊娠の必要症例の項目の k に記載はありますが、実際はその他の合併症妊娠のみで症例としては十分です。
仮に精神疾患合併妊娠を経験していても、実際のところ、周産期専門医の修練を行う基幹施設であっても精神科医が常勤でいない、非常勤もいない、ような病院も少なくなく、十分とは言い難いです。
そもそも産科の外来において、胎児や母体の身体合併症を診るだけでも時間が十分あるとは言い難く、精神的な面のサポートは助産師外来などで行われているのが現状であり、希死念慮など明らかな症状が出ない限りは経過をみられていることが多いと思います。
では初めに戻り、やはり周産期メンタルヘルスは精神科の治療対象でしょうか?
妊婦や褥婦に限ったものは認めません。
通常の気分障害、その中で、産褥期は産後うつのリスクとなる、といった程度と言ったら怒られるかもしれませんが、特別な対応はされていないのが現状のようです。
現状最もこの分野を専門にしているのは、名前のまんまですが、こちらの学会でしょうか。https://pmh.jp/
この学会は産婦人科や精神科のどちらかのサブスペシャリティというよりは、医師以外の医療者も多く、多職種で周産期メンタルヘルスを取り組む学会のようです。
ネット上に落ちていたスライドです。
母子保健領域と精神保健領域の連携と役割分担が重要とのことでした。
多職種が絡み、時間軸や空間軸の問題など・・・・なかなか大変ですね。。
個人的な意見として
産科はgrade Aカイザーのようなこともザラで、HDPやHELLPなど急激な病態変化もザラで、とにかくパタパタな科です。ベビー出して、血止めて、帰ろーって感じな。妊娠中、胎児と母体と両方にもちろん気を配ってはいますが、母体の精神面のケアについては、助産師さん任せにならざるを得ない状態です。そして精神症状が増悪し、希死念慮の話をされると、精神科に頼るしかありません。また1ヶ月検診で終わりなので、EPDSで引っかからなければ、フォローは終了になることも多いです。1ヶ月検診終了後にさらに精神症状が増悪するケースは、少なくないと思います。
一方で、精神科はもちろん精神科救急は存在し、希死念慮が強いなどの緊急時は対応してくれるとは思いますが。基本的には緊急でなければ、外来で新患として予約の調整を図ると、数ヶ月待ちというのもザラだと思います。
そもそも、精神科は単科病院やクリニックが多く、総合病院はリエゾンを主にされている先生が少数しかいないことも多く、正直連携は取りづらいシステムになっています。産婦人科以外の医師が妊婦への苦手意識を持っていることも少なくないように感じます。
保健師など行政経由で精神科に紹介となることは多く、ある程度の行政への引き継ぎは機能していると感じます。
妊娠中に、精神疾患既往、生育歴含めた抑うつ症状の有無、サポート状況を確認し、産科医や助産師だけでは無理なので早めに精神、心理面のサポートをできる体制を作ること、また合併疾患や胎児異常がある際の関わり方(説明の仕方など)、出産時にトラウマを作らないような対応など、改善点はあるのかなと感じます。
周産期のメンタルの問題は重大であること、改善できる点はあること、をより周知していくことはできるのかと思います。
産後うつは、ホルモンバランスの急激な変化や、適応障害のような状態など、通常のうつ病とずれる部分もあるかと思うので、その部分を多くの人が理解して支援していく必要があると感じます。